構造図の復元が必要な場合
耐震診断するためには構造図が必要です。この構造図を元に構造計算し、もう一つはコンクリートのコア抜きといいますが、サンプルを抜き取り、圧縮強度と中性化を調べます。また、全体を目視調査して構造体が健全かどうかも大切です。損傷があればまずその部分を修理して、その後に構造計算して診断することになります。
右の写真はちょっと珍しいことがあった時のこと。構造上大切な大梁に、なんと後から排気管の穴が開けられていたのを発見した時のものです。この穴が、梁の主筋を切断していました。言うまでもなくこれはまずいです。耐震的に診断する以前に直ちに直さなくてはなりません。写真の青い線は、超音波鉄筋探査機(UT)を使って鉄筋の位置を探査しているところです。青線が割り出した鉄筋位置です。ここは修繕することになります。
図面が保管されていた場合は、その図面に沿って構造計算して、IS値を導き出します。この通知が0.6以上であれば、とりあえず心配ないとされますが、それ以下だと何とか補強して、IS値=0.6までになるようにしますが、診断してみて初めてどこが弱いか、どのくらい弱いかわかりますから、診断しない段階では、当然その方法も金額も分かりません。
図面が保管されていない場合が問がです。旧耐震の古い建物ですから図面のない場合もしばしばあります。この場合は診断の前に、鉄筋がどの位置に入っているかをUT機(転勤探査)で、どのような太さの鉄筋かは斫り出して調べることになります。その上で構造図を復元します。しかしすべてを調べることはできません。あちこち調べ、その他は理論的に推測していくことになります。推測部分はどうしても安全側で考えることになり、診断結果は辛めにならざるを得ないように思います。この復元調査には手間がかかり、金額的な負担になってしまいます。
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今回、梁の鉄筋が一か所、設備配管の穴あけによって切断されているのを見つけました。めったにないことで、たいへんびっくりしたので、ここに記しておこうと思います。
耐震診断は、そもそも構造体が健全であることを前提として行いますから、建物の鉄筋の切断が発見されたら、まず修繕して、それから診断しましょう。ということになります。耐震診断のプログラムは、鉄筋が切断された部分の構造強度を図るようなものではないですから。想定しているのは、健全な建物である場合に限ります。
今回は、梁の主筋6本の中の3本を切断してしまったのでしたが、幸いにも?全体の中での影響は小さいという判断が成り立ち、簡易な補修で大丈夫という結論になりました。これについても分かりにくいのですが、耐震にかかわる強度は柱の強度により成り立つと考えます。梁は崩壊しないことを念頭に置きます。崩壊のモードはまず柱が先にやられると考えられるわけです。
このロジックの上に、梁は全体が崩壊しないことが求められますから、この部分は、地震時にばらばらになって他意思ないようにする、処理が修繕方法となります。
また、応力集中という構造の原理があり、柱は強い部分により多くの力が加わり、壊れる場合はその階の全部の柱が同時に壊れるものです。梁はその理屈でいえば、建物が壊れてから、その次に壊れる。ということです。
今回のこの建物は、結論は、IS値は、基準をやや下回ることになり、この部分については、崩壊しないように手当てをすることとしました。
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実際にこういう建物はそんなに多くはないと思われます。しかし聞くところによれば、ある公団の建物の場合、診断は不可能として建て替えを選んだ例もあります。実際にどのような欠陥だったのか、あるいはなぜ補修を不可能としたのか、など詳細を私が知っているわけではありませんが、おそらく、公団であったために立て直しが選択されたものではないかと思います。構造欠陥があった場合は、このようにあきらめるか、あるいはまた格闘するか、は難しいところかもしれません。建物オーナーの気持ちを汲んでより柔軟な回答をしたいものであるが、矛盾を覚えないわけではありません。
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