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東京都耐震セミナー

執筆者の写真: misimamisima

 東京都庁ホールで(2019年)耐震セミナーが開かれ、私は個別相談に当たりました。耐震について少し記載します。

 この日ホールには150名弱の来場があり耐震に対する都民の関心の高さが伺えます。セミナーでは、マンションの耐震診断や補強工事の事例が複数紹介され、その時の管理組合の方の話、補強設計の話、など具体的に詳しく話されていました。個別相談には、事前予約制にもかかわらず飛び入りもあり、感想を記してみたいと思います。


 わが国にマンションの普及が始まったのは昭和30年代の前半ころからです。最も古いものは世界遺産として有名な「軍艦島」のものとされますが、東京では1924年の(大正13年)「同潤会アパート」が有名で、その後徐々に増加し、1958年(昭和33年)原宿セントラルアパートが建設された時には、文化人が集うというイメージも加わり、一挙に人気沸騰しました。今日のマンション形態が整うのは1962年(昭和37年)の「区分所有法」の制定によるとされ、法制度が整い、その後ますます普及することになります。今日では超高層のものまで出現しいろいろな問題が出てきていますが、その中でも最もホットな問題として耐震性が問われる事態となっていると思います。


 マンション管理組合が耐震化に取り組む時必ず困るのが、管理組合の規約に耐震化の項目がないことです。マンションの修繕計画用に貯金があってもその金はそのままでは使えません。どのような手順を踏めばよいのかは、実は耐震促進法に記載があり、まずは専門家に尋ねてみるところから始まるのが普通です。

 しかし、専門家に聞けばよいのかというと、先年のNHKの報道特集で長期修繕計画でのコンサルタント業の不正を追及する場面があったりして、やはりこれにも不安感が付きまとうという話をよく聞きます。

 耐震化の総論はここで語る範囲ではないと思いますので、担当した個別相談の中からいくつかを記します。


、50戸7階建てマンション組合の相談。

 耐震診断を済ませ、補強設計はどこに頼めばよいかという質問。設計・施工を分けて頼むのと、経験のある業者にすべて頼むのと、どう違うかと言うもの。

  設計・施工を分離するか、一括して業者に頼むかは、これはもう明治の時代からの普遍的な課題であり、すでに語りつくされています。双方に理があるわけですし。ただ、例えば公共の建物の場合は必ず分離することになっているのは理由があります。

  管理組合の場合は、これに近いと考えられます。多くの組合員を抱えるのであるからいわば公的な立場であり、多数の意見がぶつかる可能性のある場合は、あたかも公共事業を行うように、分けて発注した方がよいとされる場合が多いと思います。分離する目的は、第3者的な視点を入れることと、業者間の競争原理をうまく使い公正な工事金額になるということです。

 具体例を示すと、最初A社(工事もやる会社)が補強計画をつくったがいろいろ反対意見も出て頓挫。次にB社(耐震補強を専門とする会社)に頼むがまたも頓挫。この時は金額が問題だったとのことです。最後に我々のJASOに相談にこれらてやっと解決されたという事例です。JASOは設計だけを行う会社を紹介し、その意義は設計だけを行うというその立場にあります。設計の立場は、100%組合の利益を追求するものであり、施工会社とは利益が相反する性格があり、公正さを必要とする公共工事の場合は必ず分離することになっていますが、初めてこれを行いました。

 さらにこの事例では2つの利点がありした。1つは、補強設計はいくつもやり方があるということ。今回専門家が3者それぞれ異なった設計を行ったことになり、最後の設計が最も相応しいものだったということであり、1社だけで行くことの危険性が明らかになった訳です。

 2つ目は、設計施工の分離は何が違うのか?に結果的に答えが出ました。

 結果を見ると、設計施工一体の場合は、ともすれば企業原理に引っぱられるということ。決して住民第1ではないのです。A社は居住者の意向より建設のし易さを重視したものだったことがわかり、B社は、優れた特許工法をもつ自社の耐震工法への誘導であったわけです。それぞれそれなりに道理がないわけではありませんが、居住者を第1と考えたとは言えないと思うものです。同然ですけどもね。

 

 最後にJASOで行ったものは、まず完全に居住者の利益に立って行われたところが他社と立場が異なり、違う設計になったというところがあります。つまり、施工側の利益からは離れて、公平性、公益性が表されたということができました。そういう点で最終的に組員に認められたものです。この日の都セミナーの中心講演でもありました。


、390戸の大団地の相談。

 このマンションの元施工会社が、診断し補強計画を立て、また建て替え計画も同時に計画案を示しましたが、しかしなかなか進まないという物件でした。というのも、管理組合側は理事が持ち周りで相対的に力が弱く、耐震化に進める力量が足らない、という絵に描いたように停滞してしまう模範的な形です。

 私は、ますは耐震化のみを目的とした協議会の立ち上げを勧めました。耐震化は扱う課題がたいへん大きいものです。扱く金額も多ければ、法的な判断も重たいものです。マンション管理組合の持ち回り理事では進まないことが往々にしてあります。本気で専任でこの問題に取り組む人が中心にいなければなかなか進まないものです。


、耐震診断したが、先に進めない9戸のマンション。

 とりあえず耐震診断したが、評定を取ることなくあいまいな補強をしてしまったので、困った、と言うマンションがありました。行政の助成金をもらうには、評定といいう第3者期間をかませなければならない。そうしなければ公共のお金は出てこない。信憑性がわからないままでは助成金は出ないものです。

 評定を取らなければ、いいかげんな補強ではないかとの疑いもあり、本当にそれがどの程度の内容なにか分からりません。相談者もあいまいで、IS値=0.4でいと思うのだが・・とのことであり、もし助成金を考えるなら、公的なものですからそれに沿わなければならない部分があります。


 ただし、以前はそうではありませんでしたが、最近では工事費の出せる分だけ、あるいはできそうなところだけ補強するという工事でも、助成金を受けられるケースもあります。段階補強といいますが、助成金を得る可能性もあります。もういちどきちんと手段を踏んで見直すことを勧めました。力学的に根拠の薄い(つまりいい加減な補強かもしれないと思われかねない)工事をしていくと、その先が続かないことになってしまいます。

 

 私は耐震診断に携わりながら思うところは、診断は決して簡単に扱えるものではない、ということです。構造家は、その建築物を判断するために戦います。その建物がどの程度の耐力があるのか、様々な考え方、未知の問題、内に秘められてわからない部分、などを、自らの能力を駆使して診断します。第3者機関が必要とされるには、この診断の難しさを反映していると考えて差し支えないと私は思います。



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 1996年(昭和53年)の大地震の惨状を目の当たりにしてのことであったと言われます。その後昭和56年に大幅な建築基準法の変更があり、耐震基準が見直されました。その後も少しずつ見直しがあり今日の耐震技術の獲得となっています。東京都は95%の耐震化を目標としており、様々な行政サービスが提供されています。




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